
ドミトリーとは、複数の旅行者が、同室で泊まる部屋。共同生活ゆえの不便さはあれど、立地とリーズナブルさは抜群だ。写真を見返していると、そこで出会ったある人物のことを思い出した。
その日、ドミトリーに新しい宿泊客がやってきた。ベッドくらいしかプライベート空間がないので、使っていない毛布で少し目隠しをしていたけれど、それをめくって挨拶してきたのがトニーだった。
彼はニューメキシコ州の出身のイケおじで、両腕にびっしりとタトゥー。社交的で、清掃会社の経営者をしている。お庭にプールがあって、ワニや蛇をペットにしている。とにかく存在感があった。
そんな、彼の旅の目的は、夜の街を探検すること(察してほしい)だ。深夜に戻ってきては、翌朝、カフェ行こうぜ!くらいのテンションで誘ってくる。油断ならない。
ある朝、トニーが私の仕事や出身地について質問してきた。興味を持ってもらえて嬉しく、真面目に答えていた私。すると彼はニヤッとしてこう言った。
「君の街のおすすめのストリ〇プクラブを教えて欲しい」
ブレない男だ。
スマホの画面を見せて、「すすきのへ行けばわかる。」と適当に答えるつもりだった。私はわからんが、そのエリアへ行けば君ならわかるよ。というニュアンスで。
しかし私が咄嗟に言い放ってしまったのは、
Everything is there.(すべてはそこにある。)
やけに彼が、なるほどという顔をしたのが気になって、はっ!とした。訂正しようと思ったが、訂正するフレーズが思いつかない。さらに、平易な英語で伝えたことが、強調だけでなく、謎の深みをだしてしまったような気がした。冒険に駆り立てるようなイントネーションで伝わっていないことを願う。
トニーとのお別れは突然だった。1週間くらい滞在すると聞いてたけど、それより早くいなくなった。朝に握手を求められたことと、寝床が綺麗にされていたので合点がいった。
名誉の為に補足させてもらうと、英会話の練習相手になってくれたり、高級シャンプーをシャワー室に置いてってくれたりと素晴らしい一面がある。
いつか札幌で彼に会いそうな気がする。その時は普通の飲み屋でお酒をご馳走してもらおっと。